そこで小説は終わっていた。几帳面に綴られた由貴の字。

(──すごいな)

 四季は「十五の詩」という表題のつけられたノートを、ゆっくりとパラパラとめくる。

 物語はユニスとイレーネが神学校で出逢うシーンから始まる。

 風に飛ばされて窓の外に舞ってしまったイレーネの楽譜を、風の動きを読んだかのように拾い集めてくれるユニス。

 ふたりは過去に一度会っているのだが、幼い時の出来事だったため、お互いに気づかない。

 しかし、再会をしてからのユニスとイレーネには、急激に大きな変化が訪れる。

 それはふたりが時代の変わり目を担う「変わり芽」と呼ばれる者であったからなのだ──。

 ユニスとイレーネは変化の起こり始める世界に戸惑いならがも、惹かれ合ってゆく。

 生まれた国の違うユニスとイレーネを結びつける舞台となるのは、各国との親交がある開放的な国、アレクメス。

 その上に位置する鉱石の国が、イレーネの母国であるハロン。アレクメスとは大海を挟んでの隣国であるのが、ユニスの母国であるリオピア。

 国によっても特徴があり、各国にはそれぞれ王がいるものの、政の取り仕切られ方は国によっても違うのだった。

 その国同士の事情の上にも立たされ、困難と葛藤の中に生きているふたり。

 ふたりの生きる世界はカウフェリン・フェネス。

 カウフェリン・フェネスには王制の国もあれば、リオピアのように能力のいかんによってはノールのように見つけ出され、国の政を取り仕切るまでの立場になる者もある。

 ユニスが幼い頃に、人と妖を巻き込んだ世界大戦が起こり、ユニスたちのような「変わり芽」が現れ始める理由も世界に澱む空気がそうさせるのだという理。

(虚無に対抗する歌──)

 どんな歌だろうと思った。

 音楽が好きな四季の中では様々な歌がめぐり、鳴り響いていた。

 身体は疲れていたが、眠くならなかった。

 身体を冷やさないようにお茶を入れてきて、毛布を羽織り、スケッチブックを開いた。

 四季の手に持った鉛筆が白い紙の上で、ユニスたちを描き出し始めた。



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