世は変革の時を迎えている。
力を振るう変わり芽を摘め。
水鏡の前。ユニスは水面に映るものを見ていた。
誰のものなのかわからない記憶と、何時のものかわからない今がごった返していた。
やがて、目眩を起こしそうになる。
「ユニス様」
「──大丈夫」
ノールに支えられて、ユニスは大きな水盤から離れ、長椅子にかけた。
黒髪の民であるリオピアにおいて、ノールとユニスは『変わり芽』であった。
淡く光に透ける金髪。
それはリオピアの歴史において、時代の変わり目に現れたとされる髪色だった。
ユニスの本名はユニス・セレクヴィーネ。リオピア国セレクヴィーネ王家の第一王子である。
ノールは庶民の出であったが、ユニスと同じ『変わり芽』であったため、宮廷に上げられ、その髪色でなければ会うこともなかったであろうユニスと、幼少期を兄弟のように共に過ごすことになったのだ。
現在、リオピアの友好国であるアレクメス国の神学校に在学しているユニスは、わけあって一時的に本国のリオピアに戻って来ていた。
ユニスが不在の間、国の政務はノールが取り仕切っているのだが、時空に歪みが出来るという前例のないことが起こっており、混乱が生じているというので、国に帰って来たのである。
「ユニス」
声がして、騎士服の装いの少女が水盤の間に入ってきた。
ハロン国アミステイル王家の第一王女である、イレーネである。
イレーネもユニスと同じアレクメスの神学校で学んでおり、ユニスとは恋仲にあった。
リオピアが混乱にあるという話を聞き、ユニスと共にリオピアに来たのである。