「ねえ、井上さんって呼び方何かよそよそしいからさ、麻美でいー?」
「……」
「じゃあ、決まり!麻美ね!」
「は~…あんたもモノ好きだよね」
「あんた、じゃなくて拓斗」
「…はいはい」
「ええ?拓斗って呼んでくれないの?」
「あんた、でじゅーぶんじゃね」
「ひでえんだけど」
「……」
俺がぶつぶつ文句を言ってると、麻美がふっと口角を上げた。
たった一瞬。
本当に一瞬、笑っただけだった。
だけど。
俺の心を一気に鷲掴みにしてしまったのは言うまでもない。
それからいつの間にか俺と麻美は一緒にいるようになった。
俺は誰とでも話せたけど、麻美はそうじゃなかったから俺は常に麻美といた。
クラスで俺らに近付く人はいなかったけど、それでよかった。
二人は付き合ってるんじゃないかって噂まで流れて、クダラナイと思った。