「新入生代表挨拶」

鈴蘭は真っ直ぐ前を見据えて舞台の上に立った。スポットライトに照らされて自分は舞台に立ったのだと自覚する。

こういう場になると自分には周りが見えなくなるタイプらしい。実際に今はこの原稿を読み切る事しか頭に無かったりするのだ。

大抵の人は緊張して噛んだりすることが多いらしいが鈴蘭はむしろこの場を楽しんでいた。

もしかしたら自分は生粋の舞台バカなのでは、と思う。それでも自分を魅せる場所を見つけるのは好きだった。

「…以上で挨拶を終わります」

原稿を読み切りペコリと頭を下げて舞台袖へと戻っていく。

そこには思いの外驚いた表情をした彼がいた。

「……伊達に芸能コース首席合格した訳ではないんですね」

「皆川…さん」

「君のその堂々と喋る姿勢は尊敬に値しますよ」

皮肉なのか称賛なのか分からないような言葉を残して皆川さんは自分とすれ違うように舞台の上に上がっていく。

その顔はさっきと変わらないクールな表情をしていた。

こうして舞台袖から見てても分かる。彼はやっぱり何処か寂しい表情を隠しているような。

まるで昔のひたすら親の期待に応えようとしていたあの頃の自分を見ている気がしてくる。

そんな事をしても何にもなれないし、何も成し遂げられないことに気づくのだ。