舞台袖ではどうやら一流の芸能人がスタンバイしており、入学式で何か起こすようだ。

鈴蘭は隣にいる自分より一回り高い顔の整った黒髪の少年に目が行く。

この人が愛の言っていた特進司法コースの生徒代表なのか。

すると鈴蘭は彼の持っていた一冊に思わず興味
を持ってしまった。
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」この本を持ち歩いている人なんて初めてである。

思い立つより行動が先を行ってしまって。気づくと鈴蘭はその少年の名前を聞いていた。

「あ、あのっ……!」

「何でしょうか、僕に用事でも?」

ぴしゃりと返されたその返事にめげることなく鈴蘭はスカートを握りしめた。

「その本、ロミオとジュリエットですよね…!」

「…カバーを施していたのによく分かりましたね」

「私、本は沢山読むんです。だから……っ」

貴方の名前が知りたい。その一言が言えずに顔に熱が集まりそのまま俯く。
する彼が鈴蘭の方に近づいてきて、手を差し出した。

「初めまして、胡蝶 鈴蘭さん」

「どうして私の名前を?」

そのままキョトンと首を傾げるとクスクスと笑われてしまった。なぜ笑われたのか理由も分からず鈴蘭は目を丸くする。

「…随分素直で天然な方だ。僕は皆川 杏太(みながわ きょうた)。特進司法コースの新入生代表です」

柔らかい物腰で伝えることなくそれは心のこもっていない挨拶の仕方だった。
触れ合った手と手だけで分かる。

この人は心の何処かで泣いている。

「……胡蝶さん?」

「あっは、はいっ!」

「出番が回ってきましたよ」

そして原稿を持たされポンと背中を押された。彼なりの心配なのだろう。

鈴蘭は辺りを見渡した。