やっと詰め終わった服たち。
段ボールは全部で5つ。
必要なものは向こうで揃えればいい。
明日、あたしは東京に行く。この田舎町を飛び出すんだ。
何度も話し合って、親を説得して、あたしは自分の意思を貫いた。
「美容師になりたい。東京にある美容学校に行きたい」
高校3年生の夏休み、あたしは夕飯を食べながら突然口にした。
両親は最初は冗談だと思っていた。
でも学校の資料請求して、担任の先生とたくさん話して、もう自分の中で完璧に説得できる状況を作った。
「東京には行かせない」
その一点張りだった親も受験間近になって折れた。
あたしは自分の夢を叶えたい。
美容師になって、東京のおしゃれな美容院で働きたい。
憧れだった。おしゃれな服を着て、おしゃれにこだわる人たちの髪を切る。
この山だらけの町では絶対できない。
毎日砂利道を歩かなきゃいけない。すれ違う人は子供の頃から知ってるひとばかり。みんな日に焼けて真っ黒で、毎日畑仕事しかしてなくて、あたしもそのうちの一人になると思うと鳥肌がたつ。
あたしはならない。あたしは東京でトップスタイリストになる。
そう決めたんだ。