「大丈夫だよ楓鹿。下には誰もいない」

「よよ、良かった! 割ったのは私じゃないけど良かった!」

「ははははっ! 先輩……っ蹴るとか、割れたとか……っマジ半端ねぇ!」

「ちょっとバンビせんぱ~い。困りますわー。参戦するなら事前に言ってくんないとぉ」


焦ってるの私だけ!? つまり私のせい!? なんで!?

どう考えても悪いのはヤンキーコンビでしょ!


「私は喧嘩を止めただけじゃん!」

「早とちり勘弁っすわー。じゃれてただけじゃんなあ? トラ」

「まあ日常茶飯事ではある」


私の知ったこっちゃねえ!!


瞬間湯沸かし器みたいに怒り狂いそうになりながら、自分に落ち付けと言い聞かせる。


喧嘩の仲裁に入っただけなんだから、咎められるようなことは何ひとつしていない。絶対そう。


平常心に戻ったところで、


「窓ガラス割った奴こっつぁ来い!!」


ひと目で体育会系の暑苦しい生活指導だと分かる先生が現れた。後ろには担任を含む2年生の担当教員も何人かいて、生徒に教室へ戻るよう声をかけている。


「またゴーレムかよ」

「上下とも黄土色のジャージってないわー」


呑気にしゃべる蕪早虎鉄とバクが言っているのは、どうやら1年生の生活指導らしい。


ふたりを見つけるなり、ゴーレムは「やっぱおめぇらか!」と眉をつり上げた。