まるで牙をむき出しにした獣を前にしているようで、思わずたじろいでしまう。
だけど蕪早虎鉄から発せられる威圧的な空気が、急にふっとゆるんだ。
「俺、そんなに怖くないっすよ」
――あ。笑うとけっこう可愛いかも。
だけど気は許さない。
「ほんと、やさしーほうっすよ」
そんな自己申告されたって気は許してやらない。
差し出した右手に戻ってきた携帯を感じ悪く受け取ったのは、そんな気持ちを伝えるためだった。
でも蕪早虎鉄はちょっと目を丸くさせるだけでまた微笑むから、つい「何よ」と口にしてしまった。
「いや? 怖がられてるわけじゃねぇのかなーと」
「怖いとかの前に、腹立つよね。私、痴漢と不良と嘘つきがこの世でとくに嫌いなの」
「ふーん」
「……」
ふーーーん!? ふーんって何!?
「言っておくけど痴漢はアイツで、不良のカテゴリーにはあなたが入ってるんだからね!?」
「バカバクのことはどーでもいいけど、俺のことは見た目で判断してないっすか」
うぐっと言い淀めば、さらに「俺ヤンキーじゃないんすけど」と畳みかけられる。
その見た目でヤンキーじゃないとか冗談キツイんすけど!
なんて反撃は心の中にとどめておく。