「楓鹿のスカート内を見たがる男なんて、めずらしくもなんともないよ。駅のエレベーターで盗撮されたことだってあるじゃん」

「やめて思い出させないで! そういうトラウマがあるから嫌なのに!」

「うちは、楓鹿がお姉さま直伝の回し蹴りで相手を秒殺させたと記憶してるけど?」


私は記憶から抹消し掛けていたけど、気絶した会社員20代男性のトラウマのほうが大きいかもしれないなんて、そんなことは断じてありえない。


火事場の馬鹿力って本当にあるんだね、と学んだってことで、この話は終わりでいいと思う。


「ていうか楓鹿が言うヤンキーなんて、人相悪いとか態度がでかいとか、その程度だからなぁ。思い当たらない。名前は? 聞いたの?」

「……覗き魔には名乗られたような気がするけど」


ヤンキー無理!って思ってたし、スカートの中を覗かれたショックで、忘れた。


「――お。バンビ先輩はっけーん!」


ざわっ、と。気だるさを含んだ清掃中の空気がざわめく。


ミーアは階段のある廊下の先へスムーズに視線を向け、「あ」と呟く。


私はカクカクしながら顔ごと右へ視線を動かし、目に入ったふたりの男子生徒に「ひっ……!」と小さく呻いた。


「さっきはどーもーっ!」

「ミミ、ミーアッ! あいつ! 痴漢、あれが覗き魔っ」

「え? まさか俺の噂してたところっすか。グッドタイミングってやつ?」


グッドじゃなくてバッドだよ!