もう一杯頼もうと、カウンターの方に顔を上げた時、入り口の扉が開いた。
 

開いた扉をなにげなく見ると、彩乃は「あっ!」と、思わず声を上げてしまった。
 

その声で、入り口に現れた人物の視線が彩乃の方に動く。
 

入って来たのは柏木室長だった。


彼女を連れているのかと、彼の後ろを見たがひとりのよう。  
 

急いで視線を逸らして見なかったフリをしたが、彩乃のテーブルに涼は近づいてきた。


「ひとりなのか?彼氏は?」
 

今一番触れられたくない話題。


「柏木室長こそ、おひとりですか?」


社内の噂話は涼ばかり。

 
愛想は良い方ではないが、それがまた魅力的だと騒がれる。


恋人になったら思いっきり甘えさせてくれそうだと。