「岡部先生!
私これから進路相談あるんで、代わりに戸締りお願いできます?」


「あぁ、良いですよ。」


仕方なく笑顔を向け俺は、立ち上がって掛けられていた鍵の束を持ち上げた。


大きな輪っかに無数に取り付けられた鍵が、

擦れあって音を奏でる。


それを右手に持ちながら、差し込む西日に目を細めた。



―ガシャーン!

「キャー!」


「―――ッ!」


瞬間、何かが壊れるような音と共に、耳をつんざく悲鳴が聞こえた。


驚きと共に俺は、その場所を探すように息を切らした。


確かに廊下の向こうから聞こえたはずだ。


そう思いながら、一部屋一部屋を確認するように走って。



「―――ッ!」


その光景を目の当たりにした瞬間、さすがの俺も目を見開いた。


“3-E”と書かれた部屋に、

殺気さえ帯びた目の白石と、震えて佇む桜井先生。


投げられたのであろう机のひとつが、異質に近くに倒れていて。


何があったのかなんて、わからなかった。


だけど、とても笑って流せるような状況じゃないことだけは確かだ。



「何やってんだ、白石!」


張り詰めた空気を打ち破るように俺は、声を上げて教室の中に入る。


朱の色に照らされた白石は、諦めるように舌打ちを混じらせた。



「しっ、白石くんが突然…!」


俺の姿に安心したのか桜井先生は、声を震わせながらそう呟いて。


そして小動物のように、俺の後ろに隠れた。



「ハッ!
っざけんじゃねぇよ!」


そう漏らした白石は、俺ごと桜井先生を睨み付けて。


一体、何があったんだ?