急いで教室から戻る。

家庭科室に近づくにつれて甘い香りがしてきて幸せな気分になりながら、私は家庭科室に入った。


「っ!?」


途端に目に入ったのは、調理台の近くにある椅子に座っている誰かの後ろ姿。

制服からして男子生徒。

思わずバスケットを持つ手に力が入る。


「だ、誰っ!?」


滅多に人は来ない家庭科室。

それも放課後にこの教室にいた人に驚きながら、私は聞いた。

私の声に反応して、その人は椅子に座ったまま振り向いた。


「なぁ、これもっとないの?」


そう言って振り向いたのは、すっごくカッコイイ人。

背はスラリと高くて、髪は長すぎず短すぎず、整えられていて、触るとサラサラしてそう。

スッと通った鼻に、くっきり二重の眼。

女の子なら誰でも聞き惚れちゃいそうな低い声。

同じ学年では見たことないから、多分、一年生か二年生だと思う。

口元にクリームがついていてもカッコイイ人はカッコイイんだなぁ、と思ってしまうのはきっと私だけじゃないはず。

さっき私が作ったクリームを挟んだビスケットを両手に持ったその人は、ニコリともせず私を見ていた。