「わかった。じゃあ、付き合うよ」


相変わらず、いきなりの誘いでも文句ひとつ言わないなんて、できた男だなと、いきなり誘ったくせに、私は他人事のように思った。



「うちに来る?」

「冗談でしょ? じゃなかったら、私を軽く見てるね」

「あははっ。半分は本気だったんだけど。上手くかわされたなぁ」

「何? 私今、口説かれた?」

「さぁ? どっちかな」


山辺さんは爽やかな笑みのまま。

なかなか本性を現さないなんて、手ごわい人だ。



「そこの居酒屋でいい?」


山辺さんの言葉で、私たちはコンビニの斜向かいにある、チェーン店の居酒屋に入った。

平日の夜遅くということもあって、お客はまばらだった。



「山辺さん、ビールでいい? あ、すいませーん。ビールふたつね」


嬉々として注文した私に山辺さんは、「怖いなぁ」と苦笑い。



「俺のこと潰さないでよ?」

「私程度と飲んで潰れるような男なら、置いて帰る」

「それはまた、人の闘志に火をつけるような言葉だね。おかげで意地でも負けられなくなった」


私たちは乾杯した。


ビールの苦味が喉に沁み渡る。

こんなものでしか癒されないなんて、私は女として終わってるのかもしれないけど。



「何か不思議だよね。私今、あの、企画課の奇才と飲んでるなんて。他の女子社員に知られたらハブられちゃうかも」

「誰と飲んだって文句を言われる筋合いはない。俺だって普通の男だよ」

「いや、山辺さんはモテるよ。何人か振られたって話し聞いたもん、私」

「でも、俺が本当に振り向いてほしかった人は、結局は他の人を選んだけどね」

「うっそ。山辺さんを振った人がいるの? 信じられないなぁ」


完璧を絵に描いたような人だと思ってた山辺さんが。

私はますます興味が湧いた。