「山辺さんってきもーい」

「……え?」

「前から思ってたんだけど、何か嘘臭い顔で笑うよねぇ。芸能人とかと同じ感じ」

「それは、褒めてるの? けなしてるの?」

「尊敬してるの」

「今の台詞のどこが『尊敬』?」

「誰にでもいい顔するじゃん。爽やかな笑顔の大安売りって感じ。私には真似できないからすごいと思ってさ」

「嫌味のようにしか聞こえないね」


山辺さんは、だからって怒るでもなく苦笑い。

でも、「あ、そうだ」と、山辺さんは何かを思い出したように鞄をさぐり、



「残業、大変そうだね。飴しかないけど」


未開封の小梅ちゃん。

キャラに似合わず渋いものが出てきたなと、私は思わず笑ってしまった。



「ありがと。抜かりなく優しいね、山辺さんって。そういうところすらすごいと思うよ、私」

「美紀ちゃんは一言多いってよく言われない?」

「言われるかもー」


山辺さんは、「だろうね」と言いながら笑う。


本気で笑ったら、目尻に笑いジワが出ていた。

それが本当の顔なのかと、私はまじまじと山辺さんを見た。



「何?」

「別に。インテリっぽいのに小梅ちゃんを選んだことの意外性について考察してたの」

「そんな大層な理由はないよ。昔から祖母はこればかりだったから、俺も自然とね」

「ふうん。山辺さんっておばあちゃんっ子なんだぁ。ますます意外」

「変?」

「ううん。いいと思うよ、そっちの方が」


山辺さんは「負けるよ」と言いながら肩をすくめ、



「頑張ってね、残業」

「うん。まぁ、適当に」

「あははっ。じゃあ、また明日」


手をひらひらとさせながら、私はデスクにうな垂れた。

でも、小梅ちゃんを口に入れて、もうちょっとだけ頑張ってみようと思った。