「契約取れましたー!」


翌日の午後に出社してきた宮根さんの開口一番はそれだった。

フロアのみんなは、一瞬、きょとんとした後、わーっと歓喜の声を上げた。



「まぁ、俺にかかればこーんなもんですよー。っていうか、俺に取れない契約はないっていうか?」


昨日のあの落ち込みようはどこへやら。

宮根さんは、契約書類を、まるで黄門様のようにみんなの前で広げ、



「拝め、皆の衆。そして俺を敬いさない」


課長は神々しいものでも見るような目をしていた。

私には宮根さんが、百点のテストを親に自慢する子供のようにしか見えないけれど。



「早速ですいませんけど、宮根さん。その書類を私に渡してください」

「えっ」

「諸々の書類が完成し、課長のハンコを押した時点で初めて本当の契約成立です。ですので、早くそれをこちらに」


手の平を出した。

が、宮根さんは恐ろしく顔を歪め、



「莉衣子ちゃんは、どうしてそんなにひどいの」

「ひどくないです。普通です」

「昨日は首ぺろさせてくれたのに」

「何の話でしょう。寝惚けたことを言わないでください」

「なっ」

「いいから早くそれを渡してください。でなければ、先方への信用問題にもなりかねませんし」

「………」

「それから、この前の書類ですけど、不備があったので訂正しておいてください。宮根さんのデスクに置いていますから」

「………」

「あなたはいつもそうです。確かに契約を取ることに関してすごいんでしょうけど、書類はあまりにも雑すぎます」

「………」

「私がどうにかしてくれると思って甘えてませんか? ちゃんと見直しくらいしてください。無駄な手間が増えるだけです」