それからの仕事は、ほとんど手につかなかった。

おかげで残業だ。


午後7時を過ぎ、やっとすべてを終え、帰り支度をして自動販売機のある休憩スペースに向かったら、



「……あ」


ベンチに座ってうな垂れたようにこうべを垂らした宮根さんがいた。



「え、えっと、お疲れ様です」

「残業? 嫌なとこ見られちゃったなぁ」


宮根さんは力なく笑う。

どう見ても疲弊している顔。



「直帰したのかと思ってました」

「そうしようと思ったんだけどねぇ。どうにも、家に帰ったところで仕事のこと考えちゃいそうだし」

「………」

「で、何となくまた会社に戻ってきたんだけど。今の、見なかったことにしといてよ。これ、口止め料ってことで」


宮根さんはコーヒーの缶を差し出してきた。

きっとそれは、自分のために買ったのに、飲むことさえしないままその手に握られていたものだろう。


私が受け取らないままでいると、宮根さんは自嘲気味に笑い、



「知ってるんでしょ? 噂」

「……はい」

「ださいよねぇ。っていうか、かっこ悪い。俺は物事をスマートにこなしてるやつってイメージだったのに」


宮根さんのそんな顔を、私は初めて見た。

だからどうするべきなのかもわからず、私は困惑することしかできなかった。


宮根さんはすくっと立ち上がり、かと思えばこてっと私の肩口の頭を載せ、



「俺は今、自分が思ってる以上に弱ってるかもしれない」