「まぁ、これでクビになるようなことはないにしても、宮根さん、会社じゃもう立場なくなるだろうしね」


そんなことがあったとも知らず、私はのん気にあの人の腹の底を探るようなことを言ってしまったのか。

最低だ、私は。



「宮根さんもさぁ、もしダメだったら、責任をすべて背負う覚悟みたいよ」

「……『すべて』?」

「ひどい話よね。課長は宮根さんに丸投げ状態だし。でも宮根さんはそれに文句ひとつ言わずにひとりで奔走してるんだから」


ショックだった。



今まで、のらり、くらりとした態度で、いつの間にか契約を取ってくるあの人の仕事なんて、楽そうだとすら思っていたのに。

なのに、苦労も見せず、ほんとは誰も知らないところで頑張っていたという事実。


私は、一年以上もここで宮根さんを見てきたのに、何も気付いていなかった。



「まぁ、うちらにとっては、どっちに転んだとしても、ここで紙の束と睨めっこするだけなんだけど」


先輩は虚しそうに肩を落とす。



「私たちは、何もできないんですか?」

「そうねぇ。できたとしても、愚痴を聞く程度じゃない? まぁ、あの宮根さんが誰かに愚痴るとも思えないけど」

「……ですよね」


ひどく自分が嫌になる。

自分と、そしてこの、事務作業という仕事内容が。



「宮根さんって、あれで結構プライド高くて、人に弱味なんて見せたがらないタイプじゃない? それなのに、社内はもうこの噂でもちきりだし」

「………」

「それだけでも相当のダメージでしょ。きついと思うよ。変に気を遣われたって、余計惨めになるだけだろうし」


ひそひそと話していたところで、課長が「こら!」と私たちに怒鳴った。

課長もぴりぴりしているらしい。


私と先輩は顔を見合わせ、同時にため息を吐いた。