仕事は山のようにある。
っていうか、忙しすぎて最初は倒れるんじゃないかとさえ思ったほどだ。
廊下の隅の、自動販売機のある休憩スペースで、ひと息つくためにコーヒーを買っていたら、
「聞いたよ、莉衣子ー」
にやにやしながら近寄ってきたのは、同期の親友・美紀。
「宮根さんとまたやりあったらしいじゃない。あんただけだってみんな言ってるよ。あの、営業部の気まぐれを手なづけられるのは」
「やめてよ。こっちはそろそろストレスやばいっていうのに」
「でも、あの人、莉衣子の言うことだけは聞くんでしょ。お気に入りの証拠じゃない。うちの人事課まで話が届くくらいだし、相当よ」
美紀は他人事のようにケラケラと笑いながら、自動販売機にお金を入れる。
だったら変わってよ、と、心底思う。
「いいじゃん。かっこいいし、仕事できるし。何より、上手くやって嫁にもらってもらえれば、将来安泰っぽいし?」
「あんな男のどこがいいのよ」
「えー? むしろ、何がダメ?」
「すべてよ、すべて。そもそも、私はあんな我が儘な人は嫌いなの。私はね、誠実で、優しくて、包容力のある男の人が理想なの」
「そんなやつどこにいんのよ」
「だから、探してるの。ゆえに、私は、あの人の世話係から解放されたいの。このままじゃ、私は恋愛する暇すらない」
「恋愛相手なら宮根さんがいるじゃん」
真顔で言う美紀。
話にならない。
っていうか、今の会話のどこをどう聞いて、またそこに至るのか。
「もうやめて。休憩中にまでその名前を何度も私に聞かせないで」
耳を塞ぐ私を、美紀はまたケラケラと笑った。
瞬間、美紀の顔色が変わる。
私の背後を見ながら口をぱくぱくさせるので、何なのかと振り向くと、