山辺さんは頬杖をつき、少し考えるように沈黙を作った後、



「俺にできることがあったら、協力するよ」

「ほんとに? じゃあ、また私の愚痴に付き合ってよ。山辺さんと飲んでるなんて、軽くみんなに自慢できるし」


おどけて言った。

山辺さんは「そんなことでいいの?」と、拍子抜けしたような顔だった。


私はビールの追加を注文しながら、



「あ、でも、変なことはしないでね。さすがに山辺さんにまで何かされそうになったら、私、軽く男性不信になりそうだし」

「それはまた、強力な牽制だな」

「何? まさか、エッチなこと考えてた? あわよくばとか思ってた? やだぁ」


山辺さんは呆れたように、「美紀ちゃんは掴めない子だね」と言う。



今更セックスでどうこうと言う気はない。

別に山辺さんとなら体だけの関係になっちゃってもいいのかもとも思う。


けど、でも、やっぱり、さすがに阿部課長のことがあるから、同じ社内の人だけは敬遠してしまう。



「山辺さんと私は、今日から友達ね。いい?」

「いいけど。そんな風に言われたのは初めてだな」

「じゃあ、私、山辺さんの初の女友達? すごーい。逆にラッキー」

「変な子だね、きみは」

「だって私、正直、今は恋愛とかしてられる心の余裕ないし。男の人に甘えちゃったら、ダメになっちゃいそうだもん」

「そうまでして、パワハラに耐えるの?」

「負けたら悔しいじゃない? それだけだよ」


なのに、山辺さんは物憂い顔。



「でも、俺にくらい弱音を吐いてもいいんだよ? 『友達』なんだし」

「やだぁ。一度、弱気なこと言ったら、それに飲み込まれちゃうじゃない。だから、私はポジティブでいたいの」

「強いね」

「逆だよ。弱いから見栄張ってんの。ほんとわかってないなぁ、山辺さんは」


私は、新しく受け取ったビールグラスを、山辺さんのグラスにこつんと当てた。

グラス同士のぶつかる小気味いい音が、少し寂しげに鳴った。