そうして朱塗りの鳥居をくぐり長く続く参道を抜けた途端、彼女は視界に入った後ろ姿に一瞬息を呑んだ。

どうしてこんな所に。

そんな言葉が瞬間的に閑の頭の中を過った。
教室で見かけた、異質と感じずにはいられなかったあの少年が、そこにはいた。
彼は閑に背を向けるようにして本殿の方を眺めているようだった。

風が吹く度に周りの木々がさわさわと音を立てる。その音が閑の耳にはやけに大きく感じられた。


不意に彼が振り向いた。
その仕草に閑は心臓が跳ねそうになる。彼は表情を変えることなく、ただじっと閑の方に目を向けていた。その様子に閑は動けずにいた。
そして、やはり自分が彼に感じていた違和感は当たっていたと直感した。
自分の意志で身体を動かさないのではなかった。彼から感じる何かが、彼女にそうさせるのだ。今この場で口を開くことを否定し拒絶するかのように。
そこで閑は、彼から感じられるそれが何なのかにようやく気が付いた。

それは正しく“畏怖”だと思った。
“恐れ”でも“怖れ”でもなく、“畏れ”。
何かに対して畏敬の念を抱き敬う時のそれであると、閑は全身で感じていた。


張り詰めたようでいて、ピリピリとした沈黙が続く。だが、暫くしてその空気に堪えかねたのか、気付けば勝手に口を開き、閑は声を出していた。

「あなたは、誰?」

唐突な問い掛けのせいか、それとも別の要因からなのか、彼は一瞬目を見張る。
それから彼はようやく口を開き、そして閑の質問に答えるでもなく、ただ一言呟くように言った。


「君は、視えるんだね」