早春の昼下がり、晴天の下ある家の前にトラックが止まっていた。トラックと言っても、所謂引っ越し屋のトラックだ。


安藤閑は茫然とその家の前に立っていた。家の外観をまじまじと見る姿はどことなく不機嫌そうで、そんな彼女に両親も話し掛けようとはしなかった。

そもそもが納得した上での引っ越しではなかった。
高校に入ってようやく友人もできて、そんな時期に唐突に持ち出された引っ越しの話。理由はなんとも単純でありきたりな父親の転勤だった。だが、「はいそうですか」なんて納得できるような広い心を彼女は持ち合わせてはいなかった。

何度嫌だと言っただろうか、と彼女はふと半年程前を思い返す。だが彼女の主張も虚しく、今に至るのである。以前住んでいた所は神奈川、そして今度の新しい家は東京。行こうと思えば行けない距離ではないというのは不幸中の幸いなのだろうか。
正直な話、転校というものは彼女にとって不安要素以外の何物でもないのだ。

自分がどういう人間かなんてことは、本人が一番よくわかっていることだ。だからこそ、自分が他人が考えている以上に臆病な人間で、人見知りが激しくて、他人と接することが大の苦手であるということは重々承知なのだ。
また新たに一から他人との付き合いを始めなければならないかと思うと足が竦みそうだった。新しいクラスメイトを目の前に、どれだけ自分は耐えられるのだろう。


何もかもが彼女の悩みの種だった。