現実を認めてしまうと、それは意外にも心地がいいものだった。
何も苦しむ意味がなくなった。
薫のことを想うこともない。
なぜなら、もう薫には凛々香がいるからだ。
私がいなくても薫は薫でしっかりと自分の役目を果たしていた。
それなら、私は私がやるべきことをしよう。
こうやって泣いている場合でも、悩んでいる場合でもない。
もう、そんなことをする必要がないのだから。
泣いている時間、悩んでいる時間があるなら、他のことをしよう。
そして、私は大ホールへ向かった。
そこには、今まで描いてきたたくさんの絵があった。
その絵を見ていると、薫のことを思い出す。
だから私は―――
その絵を一枚一枚破いて捨て始めたのだ。
薫との思い出を消すように―――。
薫に描いてほしいと頼まれた「青い空と海」
薫が好きな物たち―――
薫に描いてみるといいのではないかと言われた「鬼城家の庭」
薫といろいろな話をした場所―――
薫に何を描いたらいいかわからないと言ったときに描いた「窓」
『窓の外には何が待っているのか楽しみだろ?』と言っていた薫―――
一枚一枚を細かく破っていった。
でも、涙など一つも出なかった。
これでいいと思うと、とても楽だった。
そして、大ホールの中が破られた絵でいっぱいになってきたとき―――
あの絵を見つけた。