そのスコーンを一口、口に含んだ。
焼き加減はちょうど良い硬さに焼きあがっていた。
周りがかりっと仕上がっていて、中は少しだけやわらかく感じた。
甘さも程よく、ただ、何かが入っているような・・・。
「これは・・・何が入っているのだ。」
「よくお気づきになりましたね。実は、少々隠し味が入っております。」
「・・・?」
甘いといえば甘いのだが・・・。
どこかで食べたことのある味だ。
この独特な甘みは・・・っ
「にんじんか!」
「はい。人参が入っております。」
その後、香織の話を聞いていると、どうやら彼はお菓子作りにはまっているのは確かだが、ただのお菓子ではなく「野菜入り」のお菓子を作っているらしい。
このスコーンはにんじん、カボチャ、サツマイモの味のレパートリーがあるらしい。
「よろしかったら、他の2種類も食べてみますか?」
「・・・そうだな。これなら何とか食べられそうだ。」
カボチャ、サツマイモ味のスコーンを食べると、またそれぞれの味が引き立っていてとてもおいしかった。
うちの一流のシェフと同じくらいだろう。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
というのは、私の心の中にしまっておこう。
「ごちそうさまでした。」
「はい。どうでしたか?私のお菓子は。」
「あぁ。とてもおいしかった。また作ったらぜひ食べさせてくれ。」
「かしこまりました。次回を楽しみにしていてください。」
「わかった。」
「では、私はこれで。明日の朝もまたお呼びに来ますので。では、ごゆっくり休まれてくださいね。」
「ありがとう。今日は何かと助かった。」
「お礼を言われるようなことはしていません。当たり前のことしたまでです。」
当たり前、か。
執事にとってはそんなものか。
「そうか。では、また明日。」
「はい。また明日。」
ドアの閉まる音とともに、私の部屋が一気に静かになった。