絵の具をだし、パレットを見る。
使い込んでいるため、傍から見るととても汚いものだろう。
しかし、これは私が頑張った印だと、いつか薫は言ってくれた。
薫は私の絵を一番に見て、一番喜んでくれたんだ。
いつか、いつかまた、薫に見てもらいたい―――
そして、パレットの絵の具を出す。
今日は、油絵はやめて水彩にしよう。
しかし、ここまで来て私の手が止まった。
一体何を描くのだ?―――
私は何を描きたいのだ?―――
そんな言葉たちが私の中で騒ぎ出す。
いつもならこんな時、薫が描いてほしいものを言ってくれるのだ。
そして、私はそんな薫の要望に応えるように筆をはしらせていた。
でも、今は・・・何を描いたらいいのかわからない。
その時、私はあることを思い出した。
それは、ある時私が絵を描くのに困り、薫からの要望を聞いたとき。
『姫乃みたいな花がいい。』
『私みたいな花?』
『そう。何だかわかるか?』
『・・・わからない。』
『それはさ』
「バラ・・・」
あの時、薫は私のことを花にたとえて『バラ』だと言った。