家に着き、車から降りる私に

「また、夕食の時にお呼びに行きます」


と言って私の部屋についてはこなかった。


これも、シロの優しさなのだろう。



自分の部屋へ向かう私。

しかし、このまま部屋へ向かえばまた泣いてしまいそうだった。


ふと、部屋の横の扉に目が止まった。


そこは、鬼城家の中で一番大きな部屋、いや、ホール。


大ホールの扉。


その扉にそっと手をかけ開ける―――




そこに広がるのは美術用品。


キャンパス、イーゼル、筆、石膏など、まるで学園の美術室のような光景。

絵の具のにおいが漂うこのホールは、私の、私専用のホール。



鬼城家で一番大きなホールは私が憩いの場所としている場所。

時間があれば、絵を描いている。


しかし、最近は描いていなかった。

受験という言葉がちらつくようになってきた私たちに、時間はそうそうたくさんあるようなものではなかった。


「6限目・・・。でなかったからな。描いてみるか。」


部屋にこもり、泣くよりもいいだろう。

時間は、限られているのだから。



おそらくまたこれから、こうやって絵を描こうなどと思うときはないだろうからな。

なら、今描けるときに描いておこう。



まずはキャンパスの準備。

それから、筆のチェック。
最近使っていなかっただけあり、ほこりっぽくなっていた。


幸い、カビは生えておらず、洗えば使える。


そして、水と椅子を用意し、イーゼルを立てキャンパスを置く。