「それではお嬢様、いってらっしゃいませ。」
「あぁ。今日も帰りの時刻はいつもと同じだ。よろしく頼んだぞ。」
「はい。かしこまりました。では、失礼いたします。」
柏木が帰って行くのを見送り、私と隣の男は学園内へ向かう。
「もういいですか?お、じょ、う、さ、ま?」
「あぁ・・・。構わない。」
「じゃぁ、姫乃もその話し方終わりな。」
「わ、分かってるわよ・・・。」
「姫乃?」
「なに。」
「俺の名前呼んでくんねぇの?」
「べ、別に用事がないのに呼んでも意味無いでしょ・・・。」
「姫乃っ」
「・・・・・・」
「ひ~めのっ」
「・・・る」
「ん?なに?聞こえねぇよ?」
「か、かおる!」
「やっとかよ。はぁ。まぁいいや。」
「何よ!結局、薫って名前呼んだだけじゃない!」
「そうだよ?用事はねぇよ?けど、姫乃に俺の名前呼んでもらいたかったからさ。家じゃ無理だしさ。」
あぁ・・・。やっぱりだめだ。
私はこの男には勝てないようだ。
家の中ではお互いに名前で呼ぶことはない。
お嬢様とその執事と言うだけのことだ。
だが、学園内であればそんなことは関係ない。