そうだ。キミは―――
「はい?」
「キミの名前は?」
僕は執事の名前など知らない。
名前など呼ぶ必要がないからだ。
でも、この時僕は、どうしても聞きたかった。
どうしても覚えたかった。
キミ、の名前を。
「私ですか」
「あぁ」
「薫です」
「かおる・・・」
「はい。櫻井薫、と言います。」
優しく微笑む、薫の顔。
私を優しく抱きしめてくれた薫。
私の気持ちに気付いてくれた薫。
私の中は、今薫でいっぱいになった。
「では、失礼します。」
「普通に!」
「え?」
言いたいことがあるのだ。
「その・・・」
「・・・?」
良いだろうか。
「先程のように、これからも普通に話してくれないか!」
「えっ」
「さっき言ってくれただろう。身分など関係ないと」
薫は、さっき言ってくれただろう。
私に、皆同じだということを。
「お嬢様」