名前さえ、付けていれば呼んで見つけることができたかもしれない。


どうやって捜そうか。



まさか、この部屋から出るなど・・・。


コンコンッ―――



部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「誰だ。」


「失礼します」


そこにいたのは先程の白いタキシードの男だった。


「また君か。何の用だ。」


「まずは名前を頂こうかと。」

「まだそんなことをお言っているのか。なぜ名前がないのだ。」


「さぁ。ないものはないのです。ですから、お嬢様に、と」


「はぁ・・・勝手にしろ。」


「では、名前を」
「その前に、だ」


「はい?」


「私の大切なものを捜してくれないか。」

「お嬢様の大切なもの、ですか」



私の、大切な宝物。それはこの世に2つとないもの。


しかし、薫は帰ってこない―――


だから、私は見つけたい。あの―――


「白い、柴犬だ」



今日、新たに私の宝物となったもの。

あの、柴犬を何としてでも探し出さなければ。


「柴犬・・・。お名前は?」


「・・・ないのだ。付けてやる前に、いなくなってしまった。だから」
「では、今、お付けになったらいかがでしょうか」