このしつこさ、その点だけはどこか、薫に似ているような気がした。
しかし、この男は薫ではない。
私の大好きな、薫ではない・・・。
「いいから!出てってよ!今は、今だけでいいから!一人にさせて!!」
「・・・はい。では、また来ます。あ、先に言っておきますが、私は今日から」
今日は、何の日なのだろうか。
薫が突然家から出て行き、白い柴犬のプレゼント。
どこの誰かもわからない男。
この男が・・・
「今日から、姫乃お嬢様の執事になります」
薫の後を継ぐなど、もうすぐ天変地異でも起こるのだろうか。
部屋の扉がそっと閉まる。
部屋には私一人だけ。
先程まであった温もりも消えている。
薫の残り香も、消えてしまった。
残っているのは、薫のあの笑顔、そして言葉だけ。
あの笑顔と言葉を、私は一生忘れることはないだろう。
少したって、だいぶ落ち着いてきたころ。
あることに気が付いた。
「あれ、いない?」
あの、白い柴犬がいないのだ。
先程まで、いや、あれはもうかなり前のことか。
気が付けば3時間ほどが過ぎていた。
「捜さなければ・・・。薫から貰った、最後のプレゼントなのだ。」
ベッドの下、机の下、ソファーの後ろなど、隅々まで捜したがいない。
そういえば、まだ名前を付けていなかった。
まずは名前を付けてやらなければならなかった。
今更後悔をする。