最高の笑顔、最高の声、最高の香りを残して、薫は、私の部屋から、私の家から、消えていった。



「っ・・・かお、る・・・っかおるーーー!」


なんで、なんで今なの?


なんで、薫は出て行ってしまったの?

何が原因で?私?


なぜ?

ねぇ、なんで?


なんで私を置いて、一人で出て行ったの?


ねぇ、教えてよ・・・っ教えてよ!




「はいはい。もう泣かないでください。」


この声の主は・・・誰?



「・・・っ!?」


「そんなに驚かないでください。って、普通は驚くものですね。」

「誰だ!?」


「私ですか?苗字は『犬正』(いぬまさ)ですが名前はないです。だから、つけてください。私に名前をください。お嬢様。」


目の前にいたのは、白いタキシードに身を包んだ、男。

いかにも、執事、といった雰囲気だ。


しかし薫とはまた違う印象だった。



「名前がないなど、ありえないだろう・・・。そんなことより、なぜこんなところにいるのだ。どうやって」

「名前、を頂きたいのです」


「誰の許可を得てここにいるのだ・・・」


「どんな名前でも構いませんから」

「・・・出て行ってくれ。一人にしてくれ・・・」


「出ていかなくてはなりませんか?ここにいるのは。邪魔、ということですか」


「そうだ。出て行ってくれ。早く!」


「名前を頂いたら、出ていきます。」