薫が私の傍から離れていく。


一歩一歩、扉の方へ向かっていく。


薫、待って!


そう言いたいのに、言葉が出ない。

ここで、薫を引き留めて、私は何を言うのだ―――

薫を困らせるのか?


行くなと、叫ぶのか?





でもきっと、薫は『わかった』などと言わないだろう。


それをわかっているから、だから、言葉が出ないのだ。

怖くて、怖くて、言葉が、出せない。


「姫乃」


愛しい薫の声。

その声を、もっと、聞かせて―――



「姫乃、俺は姫乃のこと好きだから。ずっと、ずっと。何年経ってもかわんねぇから。でも、ごめんな。もしかしたらもう帰ってこられないかもしれない。だから、今、姫乃に言っておく。」



薫―――


「姫乃」


やめて―――



「俺」


その先を言ったら―――


「姫乃のこと」


私は薫から逃げられなくなるからっ―――





「すっげぇ愛してるから」