「いいか。今の俺の話、ちゃんと」
「聞いてない!」



「え?」




「そんな話、聞いてなどいない。たとえもう一度言われたとしても、聞かない!」


『キャンッ』



「・・・。でもこれは真実なんだ。俺はもうこの家に」
「父さまか!」


「違う」


「なら、母さまか!」
「違う!俺が決めたんだ!」



『俺が決めた』?


なぜ、薫がそんなことを決めたのだ?

なぜ、急に・・・?


「・・・・・・かだ・・・」


「え?」


「薫は、ばかだ!」

「・・・・・・」



「なんで、勝手に決めたのだ!私の相談もなく、急に!なぜ、この家を出ていくのだ!薫は、私の傍にいたくないのか?だから、彼氏もやめてしまうのか?そうなのか?なぁ、薫・・・」


涙で視界がぼやけている。

そんななかで、なぜか、薫の顔がどこか寂しそうな表情に見えたのは気のせいだろうか。


「ごめんな。けど、決めたことはもう曲げられない。姫乃と一緒にいたくないわけじゃない。嫌いなわけでも、飽きたわけでもない。でも、執事も彼氏も今日までなんだ。」

「嫌だ!私はっ、薫がいないと、何もっできなくてっ、薫がいないとっ毎日が楽しくない!」


「姫乃・・・」


「いかっないで?ずっと、傍にいて?私の、執事で、彼氏でっ、いて?」


わかっていた。わかっていたんだ。

こんなことを言っても、無駄なことは・・・。
でも、どうしても、どうしても・・・っ




ごめん―――



この言葉が聞こえるまで、現実を信じたくなかったっ。