昨日はあの後、柏木の待つ車へ向かいすぐに家に戻った。
家に戻るとそこには私の父さまと母さま、薫のお父様とお母様が私たちの帰りを待ってくれていた。
「薫、おかえりなさい。」
「ただいま、父さん。母さんも。」
「おかえり。」
そして、薫はそのまま櫻井家へ戻ることになった。
「薫くん、明日は必ず皆で見送りに行くからね。」
「はい。ありがとうございます。」
「姫乃、今日は楽しかったか?」
「えぇ。すごく楽しかった。」
「いい思い出づくりができたのね。」
いい思い出づくり。
確かに思い出は増えた。
けど、ここで終わりではないのだ。
これからが始まりなのだから。
「では、そろそろ家に戻ります。」
「はい。では、また明日。」
「ありがとうございましたっ」
薫が父さまと母さまに頭を下げる。
薫が、頭を下げる姿。
それは、しっかりと私の目に焼き付いた。
そして、薫は私に「また明日な」と言って帰って行ってしまった。
櫻井家に。
「姫乃・・・」
「うっ・・・っ」
「おいで、姫乃」
父さま優しく抱きしめてくれた。
父さまの温もりは薫のものとは少し違った。
何が違うのかはわからないけど、違ったのだ。
それでも、今は父さまの胸の中で静かに涙を流すことしかできなかった。
明日、明日で薫は私の隣からも日本からもいなくなる。
わかっているけど、わかっているけどっ。
涙は一向に止まってはくれなかった―――