「時間がありませんので、あまりゆっくりはできませんが・・・」

「わかっている。すまないな、柏木。」
「とんでもありません。では。」


柏木は気を利かせてくれて、車の中にいる。

私と薫は車を降りて、今にも沈みそうな夕日を見つめる。


「もう少し早くに来ていれば、もっとキレイだったのだが。」

「そっか。でも、充分きれいだよ。」


薫の横顔を見ると、先程とはうって変わって寂しい顔をしていた。

「かお、る?」


よく見ると、夕日に照らされて一筋の涙が光っていた。

「姫乃・・・」


「なに?」

「俺、良かったよ。姫乃に出逢えて。」

「え?」


「俺の一目ぼれから始まった恋だけど、実らないって思ってたけど、でも今、すっげぇ幸せ。」

薫の頬を涙が流れ落ちていく。

その一粒一粒がキラキラと輝きながら地面へ落ちていく。


「はぁーっ、明日から2か月間かー!俺、頑張れっかな。」

「・・・・・・」


「まぁ、頑張るけど。姫乃のために。俺たちの未来のために。」

「っ・・・薫っ」


「って、姫乃俺より泣いてるしー。」


いつの間にか私の視界も涙でいっぱいになっていた。

その涙たちもまた、薫の涙と同じように輝きながら地面に落ちていく。


ギュッ―――


薫がそっと私を抱き寄せる。

そして、強く、優しく、抱きしめてくれる。


私も薫の背中に手を回し、薫を抱きしめる。

「姫乃。指輪な、俺の分はないんだ。」

「え?」

「俺の分は、帰って来てから作ってもらう。っていうか、姫乃に選んでもらいたい。」
「私が?」


「俺が姫乃に似合うものを選んだから。今度は姫乃の番だろ。」


「うんっ、選んであげる!」

「上から目線だな。」


そう言った薫は自分の体から私を少し離し、私の目を見つめる。