「お帰りなさいませ。」
「なっ、早いではないか!」
「早くてはいけませんでしたか?お嬢様。」
「そんなことはないが・・・」
こんなことになるなど、私の予定には入っていなかったのだ。
まさか、私よりも先に薫が帰ってきていることなど。
礼の手紙でも一枚書こうかと思っていたのだが、これでは書けないではないか。
はぁ。私よりも後に帰ってきてもらいたかった、とは言えず。
手紙のこともあるが、他にも理由がある。
それは・・・おそらくこの後すぐに起きるであろう私にとっての悪夢だ。
「お嬢様。」
「な、わ、私は先に部屋に」
「お聞きになっていないのですか?」
これは、かなりやばい。
この場から逃げ・・・いや、部屋に戻りたいのだが。
このままでは、あの話がでてくるのだろう。
「なんのことだ?さっぱりわからないぞ。私は今日は疲れている。だから先に」
「柏木さんから何もお聞きになっていない、と?」
「・・・・・・」
「お嬢様。」
「あぁ!聞いた!これでよいか!私は部屋に戻る!」
「お嬢様」
「なんだ!?まだ何かあるのか?」
「姫乃だけだからな」
「・・・・・・」
私の耳元でそっとささやかれたその言葉はさっき柏木から聞いた言葉。