案の定、一番驚いたのは薫。
でも、そこはやはり薫だった。
すぐに、あの優しい笑顔になり私の目を見ながら返事をくれた。
「それは教えることはできません。でも、この学園内にいます。その人は」
―――とてもきれいな人です。
その言葉を聞いて、私は目を見開くことしかできなかった。
なぜ、今そんなことを言ってくれるのだ?
「先生。」
「はい?」
「少しだけ、長い話をしてもいいですか?ここで話すことは今日で最後だと思うので。」
「・・・そうですね。特別に許しましょう。」
「ありがとうございます」
薫がこの場で話をするのは今日で最後、という言葉で心が痛くなった。
今日で本当に薫はいなくなってしまう。
そう思うと、本当に心が痛かった・・・。
「皆さんにこの場を借りて話したいことがあります。それは、以前僕が執事をしていたお嬢様のことです。」
薫が話を始めた。
でもそれは、私の話?
どういうことなのだろうか。
「僕が、なぜ、以前のお嬢様の元を離れて、今のお嬢様の執事をしているのか。」
皆が真剣に聞いているとは限らない。
周りからしてみれば、どうでもよい話だろう。
でも、私は、本当に真剣に聞いていた。
それは、今まで私が疑問に思っていたことたちだったから。
薫が私の方を向く。
皆はそんなことは気にしていないのだろう。
ただ単に、薫が私を見ているだけだと、そう思っているのだろう。
薫が私を見ている理由を知る人はいないのだから。
そして・・・あの日からの、いや、あの日から少し前のことから話が始まった。