「僕が教えられることはこれくらいです。頑張ってくださいね、お嬢様。」
「待ってくれ!香織は!」
「僕はいつでもいます。そこに」
そう言って私の左胸のあたりを指さす香織。
そこにあるのは、心。
私の心の中に、香織はいつまでもいるというのか?
「そんなことっ」
「僕は戻ります。もとの―――姿に。この白いタキシードともお別れです。」
「どういう、ことだ?」
「お嬢様。もう心に鍵はかけないと、約束してください。どんなことがあっても、前へ進んでください。お願いします。」
私の前で軽く頭を下げる香織。
香織のこんな姿を今までに見たことなど一度もない。
だって、これでは・・・
「永遠の別れみたいではないかっ・・・」
「お嬢様の中にずっといますから。」
そっと頭を上げた薫の表情は―――
優しい笑顔だった。
「っ・・・」
「泣かないでください。好きな人の泣き顔など見たくないですよ?」
「っうぅっ・・・」
私の精いっぱいの気持ち―――香織に捧げます―――
「今まで本当に、ありがとうっ!約束する、絶対もう自分の心に鍵などかけたりしない。見失ったりしない!・・・香織、大好きだからな!」
「はい。・・・ありがとう。姫乃。僕も、大好きです―――」
そこで、私の視界が揺れた。
そして、遠のいていく意識の中で、香織の笑顔とあの言葉が聞こえた―――
「頑張って―――」