「姫乃、昨日の話なんだけど」


「香織は香織。」
「え?」


「私の中には香織しかいない。昨日の電話がどうであれ、私にとってのかおるは香織だけだ。」


「姫乃・・・」

「香織は・・・いや。何でもない。すまないが明日は学園へ行く。今日はゆっくりさせてもらいよ。」

「あぁ。わかってる。」


ゆっくりと瞳を閉じて、もう一眠りしようとしたとき、あることを思い出す。


「あ、香織!」

「ん?なに?」
「香織は、自分の学園へ行かなくてもよいのか?」


「あぁ。今日は行かない。この家にいるから、何かあったらいつでも駆けつけるよ。って、家の中で安静にしてたら何もないか。じゃぁゆっくりしろよ。」


香織が扉を閉めて部屋から出て行ったのと同時に、また睡魔が襲ってきた。
そして、そのまま眠ってしまった―――



『姫乃』

『なんだ?』


『姫乃』

『だから、なんだ』

『姫乃っ』


『だから!』


『俺が一番好きな名前だから、たくさん呼べて嬉しいってこと』




え―――。



「かおる?」


目が覚めたとき、視界がぼやけていた。
理由は、私の目にたまった涙。


涙。
なぜ、こんなにも切ないのだろうか。


今の夢は、夢なのか?

どこかで聞いたことがあるような、言ったことがあるような気がした。