「かおる、実は今日美術の時間にとんでもないことが起きたのだ。」
「お嬢様・・・」
「教室に、絵筆を忘れてしまってな?先生にそのことを伝えて、美術室へ戻ると、今日は特別な課題を出されたのだ。」
「特別な課題、ですか?」
「それがだな。『自分に似たもの』を描けというのだ。」
「お嬢様に似たもの、ですか。」
「あぁ。でもな・・・」
「・・・?」
「なぜだか、それは考えてはいけないような気がするのだ。考えると・・・心が痛いのだ・・・。」
そういうと、かおるは少し悲しい顔をした。
今にも泣いてしまいそうな、そんな顔をしていた。
「かおる?」
「お嬢様・・・」
「ん?」
「お嬢様の中の『かおる』は誰ですか」
「かおる?」
「私のことですか?」
かおる・・・香織。
かおるは―――
「キミ以外に誰がいるのだ?」
「・・・・・・」
犬正香織。それがキミの名前だろう。
香織はキミ以外にいないではないか。
「それでは・・・」
「なんだ?」
「お嬢様にお願いがあります。」
「ん?」
「お嬢様にどうしてもお願いしたいことがあります。嫌なら嫌で構いません。正直に返事をしていただけますか?」
「あぁ・・・」