校門から、制服のまま飛び出した。
一度、家へ戻り、あの紙片を引き戸から、あるだけもぎ取った。
捜される事を拒んで、上着と鞄は海のそばの川に投げ捨てた。所持品が海から見つかれば、身投げしたと思うだろう。自殺の理由なんて、この世の中、いくらでも他人が考えてくれる。

カシェの唇を吸いながら、ミトは銀のケースを見つめている。
塗料が口に入ると、汚れて不味いので、カシェにステックルージュを唇に塗る事を禁じていた。
だから、カシェはその「おもちゃ」で小屋中に落書きをする。木を打ち付けただけの小屋は、カシェによって無秩序に紅く塗りたくられている。
手で擦っても、ひろがるだけだ。

カシェの頭は、まだ幼児のままだ。けれど、あの頃よりは、数段ましになったと思う。