「あと、強弱ね。もっとメリハリつけていい。今のじゃ何にも伝わんねぇ」
奏太は、突然入り込んできた人だとは思えないくらい、合唱団になじんでいた。
その証拠に、ペンを取り出して楽譜にメモをとっている人もいる。
でも、私はそんな事する暇がなかった。
今目の前にいる奏太が、やっぱり、あの頃の奏太にしか見えなかったから。
友達とふざけあっているときとは別人のような顔つき。
緊張感のある声色。
でも、1つだけ違う。
奏太の目に、光がない。
あの頃の奏太は、音楽のことになると、宝石みたいに目がまぶしいくらい輝いていた。
でも、今は――。