「バッカじゃねぇの?」





キン、と尖った声が耳をすり抜けた。




「そんな顔して、よくそんなこと言えるな」




スリッパが動く音が聞こえたと思ったら、いきなり手首を捕まれた。


そのまま、奏太は私を無理やり自分のほうに向かせた。



「そんな目して、見え見えなウソなんてつくなよ」



奏太の力強い手のひらが、私の手首を包み込む。


優しい声が、だんだん心に染みていく。




「――奏太だって……」

「え?」

「奏太だって――私のこと、要らないって言ったじゃんっ」




その言葉で、奏太の表情が凍った。