「私は音楽が好き。バカにしないで」
そう言ったとき、再びかわいた音が廊下に響いた。
頬がじんじんする。
熱が広がっていくみたい。
今度は私がぶたれた、と気がついたのは、少ししてからだった。
「そんなに好きなら――どっちかだけにしなさいよ……! 私たちの音楽への思いもバカにしないで!」
いつのまにか、部長の細長い目から涙が溢れだしていた。
「音楽が好きなのはあなただけじゃない。勘違いしないで」
窓から差し込む光が、涙に反射してまぶしい。
「あなたは自分しか見えてない。そういうのを自分勝手って言うのよ」
涙を見せても、決して視線の鋭さは変わらない。
『自分勝手』
その言葉が心に突き刺さる。