二人で静かに階段を下りていき、半分辺りの所で足を止める。
すると、私達の耳に聞きなれた声が入ってきた。
「今日は職員会議があるから少し遅くなる。でも、夕飯には間に合うようにするな。」
「うん、でも無理しないでね。」
「あぁ、解ってる。」
私が毎日見ている光景、それはお父さんの見送りをする時の事。
お母さんの妊娠が発覚した時から見てきたこの光景は、今では私の一日の始まりを告げてくれる光景となっている。
むしろ、この光景を見ないと一日が始まらないと言っても過言じゃない。
「今日の晩御飯は何か食べたいものとかある?」
「ん――そうだな……麻椿が作るものだったら何でもいい。簡単なものでいいよ。」
「そっか…じゃぁ、考えとくね。」
「あぁ。……でも、晩御飯が簡単なものでいい代わりに麻椿にお願いがあるんだ。」
「お願い?」
お父さんの『お願い』という言葉に、お母さんだけじゃなくて私達子供も耳を傾ける。
なんだろう、お父さんのお願いって…。