「知ってるけど…」
「だったらだだこねてないで早く起きて。」
「へーい…。」
渋々起き上がった瞬輝は、そのまま下へと降りていった。
どことなく納得しきれてない様子にみえるけど、こればかりは仕方ない。
我慢してもらうしかない。
瞬輝が寝ていた布団を綺麗にし、カーテンと窓を開ける。
全部、お母さんが私達にしてくれていたこと。
「おはよー」って笑顔で起こしにきて、部屋に太陽の光りをいれてくれるんだ。
それが当たり前だと思ってたけど、自分で全部やるようになってから、凄く幸せな事だったんだなぁっと実感した。
大人になるってこうゆう感じなのかなぁ。
少しずつ自分でやることを増やすみたいな…。
いつかは親の力無しで生きていくんだよね。
当たり前なことって解ってるけど、何となく寂しいな。
「永愛ー、ご飯できたよぉ?」
「はーいっ、今行くー。」
まぁ、まだ先のことだもんね。
今は目一杯甘えておこう。
『半年前のあの日』
私と瞬輝が高学年へと上がり、自分の事は自分でできるようになった頃、お母さんは本格的に仕事へと復帰した。
その頃までは家で仕事をしていたけれど、復帰してからは会社に行ってバリバリと働いていた。
学校から帰って家にお母さんがいないのは寂しいけれど、楽しそうに働いているお母さんを見るのは大好きだった。
それに晩御飯は一緒に食べてくれたし、休日にはお父さんと一緒に沢山遊んでくれたから、私と瞬輝が辛い思いをすることもなかった。
ただ、半年前にお母さんが倒れるまではの話しなんだけど……。
休日に家族で海に行ったあの日のこと。
私と瞬輝とお父さんは海に入ってはしゃいでいて、お母さんはそんな私達を浜辺で見ていた。
「私はみんなを見ていたい」って言ったお母さんだけど、本当はこの時にはもう体調が悪かったのかもしれない。
でも、そんな事を知らなかった私達は、お母さんと遊びたい気持ちを隠す事をしなかった。
「おーい、麻椿!!お前も来いよぉっ」
そして、そんな私達の気持ちに気づいたのか、お父さんがお母さんを呼んだ。
「…うん。解った、今いくね。」
お母さんは家族が大好きだから。
自分の事より家族の事を優先するから。
だから、この時も無理して私達と遊んでくれようとしたんだよね。
浜辺に座っていたお母さんは、ゆっくりと腰を上げて海へと歩いてきた。
「お母さーん!!!」
「早く早く!!!!!」
「うん…待ってね。」
そして、海へと足を入れ一歩二歩と進んだあたりでお母さんの様子が変わりだした。
「…麻椿?」
「…あはは、何でもない。今いくから。」
お母さんは無理をするのが誰よりも得意だから、この時も辛いのに必死に笑っていた。
でも、そんなお母さんをずっと見ていたからか、お父さんは直ぐに異変に気づいてお母さんの所へと駆け寄っていった。
「永愛、瞬輝見ててな。」
「うん……。」
お母さんどうかしたの?
そしてお父さんがお母さんの肩に触れた瞬間、お母さんは力なく崩れていった。
「っっ!!!!!!」
そんなお母さんをとっさに支えたお父さんは、今までに見たことのないような顔をしていていた。
「おとう…さん?」
お父さんのその顔を見た私達は、今大変な事が起きているんだと直ぐに察した。
瞬輝もただならぬ不安を感じたのか、私の手を握って離さない。
「瞬輝、二人の所に行こう。」
「うんっ。」
海の中を必死に進み、私達は二人へと急いで駆け寄った。
お母さんの顔は真っ青で、汗も沢山流れている。
今まで見た事のないお母さん。
それに、
「麻椿!!おいっ大丈夫か!?」
今まで見た事がない位に焦っているお父さん。
「お母さんっっ」
その二人の姿は、私と瞬輝の不安を更に大きなものにした。
ねぇ、お母さん。
何でこんな所で眠っているの?
早く家に帰ろう…?
『目覚めると<麻椿side>』
「う……」
ここはどこだろう。
目を開けているというのに視界がボヤケて気持ち悪い。
身体は鉛のようだし、頭だってフラフラする。
「……せ、ん…せ」
何で私は寝ているのだろう。
確か家族で海に行ってたはず。
最初は見てたけど、私も海で遊ぼうとして、それで…それから…。
あれ?
そこからの記憶が…。
「…麻椿?」