焦り始める俺に、落ち着いた教頭先生の声が響く。
その声に教頭先生の顔を見ると、俺の目を一直線に見る姿が目に入った。
俺が話すのを待つかのように、少し微笑んだままジッと…。
教頭先生のこの雰囲気は少し苦手だ。
身体の内側が温かくなってくるみたいで、つい色々な事を話してしまいそうになる。
きっと、こういう所も慕われる理由なんだろうな。
教頭先生の要望に応えるように、閉じていた口を再び開いた。
「妊娠中の妻の体調が悪いようで、連絡が取れない状態にあると先程聞きまして…。ですので、今すぐにでも病院に…」
「冨田先生。」
「…はい。」
「ここ数年お休みをとられていませんよね?」
「え、あ…はい。そうですが。」
いきなりの質問に戸惑いながら答えると、教頭先生の顔がさっきよりも微笑んだような気がした。
「では、今日から数日の間お休みをとって下さい。」
「え、休み…ですか?」
早退ですら許されないと思っていたのに、休みなんて…。
「妊娠中の体調不良は不安が大きいものです。少しでもその不安を和らげてあげれるよう、傍にいてあげて下さい。」