「おーい、麻椿!!お前も来いよぉっ」
そして、そんな私達の気持ちに気づいたのか、お父さんがお母さんを呼んだ。
「…うん。解った、今いくね。」
お母さんは家族が大好きだから。
自分の事より家族の事を優先するから。
だから、この時も無理して私達と遊んでくれようとしたんだよね。
浜辺に座っていたお母さんは、ゆっくりと腰を上げて海へと歩いてきた。
「お母さーん!!!」
「早く早く!!!!!」
「うん…待ってね。」
そして、海へと足を入れ一歩二歩と進んだあたりでお母さんの様子が変わりだした。
「…麻椿?」
「…あはは、何でもない。今いくから。」
お母さんは無理をするのが誰よりも得意だから、この時も辛いのに必死に笑っていた。
でも、そんなお母さんをずっと見ていたからか、お父さんは直ぐに異変に気づいてお母さんの所へと駆け寄っていった。
「永愛、瞬輝見ててな。」
「うん……。」
お母さんどうかしたの?
そしてお父さんがお母さんの肩に触れた瞬間、お母さんは力なく崩れていった。
「っっ!!!!!!」
そんなお母さんをとっさに支えたお父さんは、今までに見たことのないような顔をしていていた。
「おとう…さん?」
お父さんのその顔を見た私達は、今大変な事が起きているんだと直ぐに察した。
瞬輝もただならぬ不安を感じたのか、私の手を握って離さない。
「瞬輝、二人の所に行こう。」
「うんっ。」
海の中を必死に進み、私達は二人へと急いで駆け寄った。
お母さんの顔は真っ青で、汗も沢山流れている。
今まで見た事のないお母さん。
それに、
「麻椿!!おいっ大丈夫か!?」
今まで見た事がない位に焦っているお父さん。
「お母さんっっ」
その二人の姿は、私と瞬輝の不安を更に大きなものにした。
ねぇ、お母さん。
何でこんな所で眠っているの?
早く家に帰ろう…?
『目覚めると<麻椿side>』
「う……」
ここはどこだろう。
目を開けているというのに視界がボヤケて気持ち悪い。
身体は鉛のようだし、頭だってフラフラする。
「……せ、ん…せ」
何で私は寝ているのだろう。
確か家族で海に行ってたはず。
最初は見てたけど、私も海で遊ぼうとして、それで…それから…。
あれ?
そこからの記憶が…。
「…麻椿?」
ボヤケた視界を払うかのように、誰かが私の頭や頬へと触れる。
誰なんだろう…大きな手だし先生かな?
「おい、大丈夫か?俺の声聞こえる?」
あ、やっぱりそうだ。
この安心する声は間違いなく先生。
「頼むから…返事しろって…。」
先生、心配してる。
焦ることが少ない先生が、私の事でこんなにも…。
私に触れる手、それに声だって微かに震えてる。
大丈夫だよ。
先生の声、ちゃんと私に届いてるから。
何も心配する事なんて無い。
ねぇ、
「せんせ…」
「……っっ麻椿!!」
いつもみたいに笑って見せて?
そして、私を包みこんで…。
――――――――………
「うん、もう大丈夫そうですね。安定しているようですし、明日にはお帰り頂いていいですよ。」
「ありがとうございます。」
「では奥さんとこれからの事など、よく話し合って下さいね。あとお薬出しときますから毎日飲ませるようにして下さいね。」
「はい。」
…何だろう、この置いてきぼりな感じは。
医者と先生ばっか話して、それに内容だってイマイチ理解できない。
「まーつば、大丈夫か?」
「え、あ、うん。」
今の先生は少し甘えん坊な気がする。
さっきから私にピッタリ引っ付いてくるし…。
「……なぁ、麻椿。」
「ん?」
「とりあえず明日は会社やすめよ。それから、これから少しの間は家でゆっくり仕事しなさい。」
「えっ…」
今まで一度もそんな事を言わなかったのに…。
もしかして私が無理してると思ったのかな?
家事と仕事の両立が大変で、だから倒れたって、そう思って…。
「麻椿?」
「嫌、嫌だ。先生、私無理した訳じゃないの。ただ今日だけは体調が良くなかっただけでっ…」
「あのな、麻…」
「皆に迷惑かけたくない!!大変なのは皆だって同じなのに、私だけ会社に行かないなんて…キャッ」
興奮する私をなだめるように、先生は私の身体を自分へと傾けさせた。
先生の心臓の音が響いて、とても落ち着く…。
「お願い麻椿。安定期に入るまででいいから、その間だけは家にいよう?」