先生と執事【続・短編】







「ちが、違うの…嫌じゃなくて…。その…。」





真っ赤になりながら必死に話す姿を見ると、麻椿が本当に幼く見えてくる。






「なんか、昔の話しをしたからなのか、すごい緊張しちゃって…。」






あぁ、麻椿も同じこと思ってたのか。






お互い見た目は大人だけど、気持ちだけはあの頃に戻ってるみたいだな。







「麻椿。」





「…なに?」





「俺もさっきの麻椿みたいに伝えなきゃいけないことが沢山あるんだ。」





「え?」






麻椿に伝えたいこと、それはもう数えきれないくらい沢山ある。







例えば、出会ってくれてありがとうとか、好きになってくれてありがとうとか。







でも、今一番伝えたいありがとうは…。







「…子供達の、あの子達の父親にしてくれて、本当にありがとう。」






やっぱり、これなんだよな。



















「せんせ……。」






「麻椿と家族になれて、本当に良かった。」






「………そんなの、私もだよ。」






「愛してるよ、麻椿。」






「う…ん、うん…。」






向かい合わせになって座っていた麻椿が、俺の腕の中へと飛び込んでくる。






子供のように泣きじゃくる姿が、また幼く見える。






昔はあんなに強がって泣かなかった麻椿が、今では大分泣き虫になった。






でも、俺の前だけだからいっか。






誰も知らないレアな姿を見せて貰えてるんだもんな…俺だけの特権だ。







「なぁ、麻椿。」






「ん?なに?」







俺の胸の中で泣いている麻椿が、少しだけ上を向いた。














もっとよく顔がみれるように、麻椿の顎をもちあげる。






すると、何をするのか解らないといったキョトンとした表情で俺を見つめた。






「そろそろ限界、いい?」






そんな麻椿を追い詰めるように、耳元で囁いてみる。






「えっちょ…心の準備が…。」






「いいよそんなの、いらない。」






「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」






半ば強引に麻椿をベッドへと倒し、キスをする。






すると、俺の力に観念したのか、麻椿の抵抗する力が少しずつ弱まっていった。






「なぁ、もう一人子供欲しくない?」






「……今の台詞、すごいオヤジくさい。あ、もうオヤジか。」






今の今までオドオドしていたくせに、こうゆう事をいう時だけは凄くいたずらっぽく笑ってみせる。






だけど、そんな言葉や態度にひるむ俺ではない。







「麻椿、誰に何言ってるか解ってる?」






「え、あ、ちょ、ごめんって…冗談!!」





「いーや、今のは冗談じゃなかったな。もう手加減してやらない。」






「うそうそうそっごめんなさ…んっ」








意地悪で俺にかなうことは、きっと一生ないよ。














『目覚め<麻椿side>』











―――――――――――――………





「ん………。」





なんだろう、身体が重い。






とゆうより、上半身が重い。






「なに…なんか乗って…っっ」






重りの正体を突き詰めようと閉じていた目を開けると、そこには先生の寝顔があった。






しかも、顔と顔の距離めちゃくちゃ近い…。






でも、何よりドキドキするのは先生の上半身が裸なことであって…。






まぁ私も裸なんですけどね、でも、で……あー、もう目のやり場に困るっ!!!!!






何年も一緒に居るっていうのに、こうゆうのはいつまで経っても緊張するんだよなぁ…。






「ん――…んん……。」





私の身体の動きに少し反応したのか、先生も少しだけ身体を動かした。






「…ふふふっ。」






寝てる先生って可愛いよね、なんかいつものあの大人な雰囲気がなくなって幼くなるし。






それと、こうやって先生の寝顔みてると、瞬輝はやっぱり先生によく似てるんだなぁって思う。






二人の寝顔、ほんとそっくり。






「先生、そろそろ起きないと子供達降りてくるよ。」






「んん――――……。」






私の言葉に、先生は寝返りを打つ。






でたな、寝起きの悪い先生め!!






…あ、そういえば、私の身体の上に乗ってたの、先生の腕だったのか。







どうりで重いはずだよ。























どうしようかな、もうそろそろ幸穂も起きちゃうだろうし…。





とりあえず服着て、もう一度だけ先生を起こして、その後にご飯だけ作ってしまおうか。





自分の下着や服を着ようと思い周りを見渡す。





が、下着はあるものの服が散乱しすぎて何処に何があるかが解らない。





「くぅっ………。」





この忙しい朝に一枚一枚服を探すのは時間が惜しい。






背に腹はかえられないか、仕方ない…。





直ぐ近くに落ちていた下着を身に着け、その上に私には大きすぎるティーシャツを着る。






これなら何とか下着も隠れるし、後はエプロンでもしておけば子供達にはワンピース位には見えるだろう。






先生、服を少し拝借致しますね。






「よし、とりあえず服は良しとして…。」






朝御飯を作りに台所へ向かう前に、もう一度だけ布団を顔の半分位まで被り、とても幸せそうに眠る先生の顔を覗き込む。






「先生、起きて下さいよ。学校に遅れちゃいますよ。」






「…………スー…スー…。」






まぁそうですよね、そうなると思いましたよ。






これは声だけじゃ無理だと感じ、先生の肩に手を置き身体を優しく揺すってみる。






「せーんせっ!!もう起こしませんよ?遅刻しますよ?」






「んん――………。」






おかしい、いつもはここまで寝起き悪くないのに!!!







もうっ次の日が休日じゃないのにあんなことするからこうなるんでしょう!!







「雄揮、いい加減起きなさい!!遅刻するって言ってるでしょっっ!!」














先生の寝起きの悪さに腹が立ち怒った次の瞬間、グイッと身体がベットに引き寄せられた。






そして、私が目を開けた時には、ベットに引き寄せられた身体は力強くて暖かい先生の腕の中におさまっていた。






「おはよう、麻椿。」






驚く私とは逆に、爽やかに笑う先生の姿が目に映る。






「………最初っから起きてたの?」






「はははっ、ごめんごめん。どんな反応するかなって思ってさ。」






やられた、この忙しい朝に遊ばれるとは……。






「ごめん、もうしないよ。ただ、やってみて良かった。」






「何で?私が必死そうで面白かったとか?」






幸せそうに笑う先生に、少し憎たらしく言い返す。





それを感じたのか、先生はもう一度「ごめん」と謝りながら私の頭を撫でる。






その仕草に怒っている自分とドキドキしている自分が入り混じって、気持ちの整理が難しくなっていく。






「ねぇ先生?何で?」






先生が何に対してやって良かったと思えたかをもう一度問うと、先生は更に優しく幸せそうに笑った。






「麻椿の必死な姿を見れたのも良かったけど、一番は久しぶりに名前で呼んで貰えたからかな。」






「えっ……。」





「さぁ、もうそろそろ支度しないとまずいだろう。起きるぞ。」





「ちょ、先生まっ……。」





「あぁ、あともう一つ。」






「え?」





私をベットへと置き去りにし先に用意を始めていた先生が、真剣な顔をしながらもう一度私の方へと戻ってくる。







「朝から俺の服着てる麻椿が見れて嬉しかったよ。でも、誰にも見せたくないから着替えなさい。パン焼いて、お湯沸かしといてやるから。いいな?」








「は、はい……。」















バタンッ




な、なに、何なのこの展開は。




先生に何があったんだろうか…昨日から何か甘いんだけど…。




『久し振りに名前で呼んで貰えたからな』




…そういえば、態度もだけど、先生があんなこと言うなんて思わなかったな。




子供達の前ではお父さんとかパパで、二人の時は先生と呼んでしまうからなぁ。




雄揮と呼んだのは確かに久し振りだったかもしれない。




……うん、もう少し呼ぶ頻度増やしてあげよう。




さっきの反応、ちょっと可愛かったし。




「あれ、お父さん?」




「おぉ、おはよう永愛。」




あ、永愛起きたんだな…。




「おはよう…今日は行くの遅いんだね。」




「あぁ、たまには皆と朝御飯食べようと思ってな。」




ふふっ、嘘つき、ただの寝坊の癖にね。




「お母さんは?」




「んー?あぁ、昨日夜遅くまでお父さんに付き合って貰ってたからな。まだ寝てるんじゃないか?」




っっっちょ、ちょっと、何言ってるのあの男は!!!














もう少しの間、二人の会話を聞いていようと思ったが、急いで服を着替えてリビングのドアを開けた。





「ちょ、雄揮!!なにいって……」




「あぁ、麻椿起きたのか。おはよう。昨日は遅くまで晩酌に付き合わせて悪かったな。疲れてない?」




「っっえ、あぁ…だい、じょうぶ。」




「おはよう、お母さん。」




「お、おはよう。」




やられた、また先生にやられた。




さっきも散々からかわれたのに、またはめられるとは私もバカだな…。




私の焦った姿と落胆する姿を見て笑みを浮かべ、先生は冷蔵庫から卵を出し朝御飯を作り始めた。




もういいか、今日は私の完敗だね。




「雄揮、朝ごはん作るの代わるよ。行く準備してきて。」




「あぁ、ありがとう。」





久し振りの先生からの刺激にドキドキさせて貰えたし、今日は完敗を認めてあげる。





先生からフライ返しを受け取り、調理を始めようと卵に目をうつす。





「麻椿。」




「ん?………っっちょ」




「じゃぁ、後は頼んだ。」




やられた、去り際にまであんな刺激を残していくなんて。




卵に移した視線を動かせないまま、顔の火照りだけは増していく。




「お母さん?どうかした?」




「ん?うんん、何も!!瞬輝起こしてきてくれる?」




「はーい。」




もう怒った、今日のお弁当には唐揚げ入れてあげないっっ!!!








――――――『麻椿、名前は二人だけの時に呼んで欲しいな。』