家庭の事情も一切愚痴ることなく、いつでも前だけを見て突き進んでいく聖の姿は、全てにおいて怠けがちな蒼馬を、知らぬうちに引っ張ってくれていた。
 
一種の憧れもあったのだろう。
 
近づきたくて、追い越したい存在。
 
親友でもあり、ライバルでもある存在。
 
だから聖に出来て、自分に出来ないはずはない。

 
剣の切っ先を真上に向ける。


「雷ー獣ー斬ー!!」

 
勢い良く剣を振り落とすと、獣を模った雷が阿修羅王に襲い掛かった。
 
それを見て、阿修羅王は不快に眉をひそめた。

「まだまだ駄目だねえ……」
 
フウ、と息をついてから剣を構え、噛み付いてくる雷獣を、一振りで一掃した。そして素早く振り返る。

そこにはいつの間にか背後に回りこんだ蒼馬がいた。

「──っ」
 
まさか気付かれたとは思っていなかった蒼馬は慌てて後ろに退こうとしたが、ガシッと胸倉を掴まれてしまった。

「雷獣をおとりに背後から攻撃か。考え方としてはまあまあだけど、動きが遅すぎる。これでは陽動にならん」
 
そう言うと、パッと手を放す。
 
蒼馬は後ろによろけて道路に尻餅をついた。