今の力でジャクラに勝てるとは思わなかった。しかし、それでも退くわけにはいかない。
 
自分達の“願い”の為に。



「うわああっ!」
 
蓮は夜叉王の大剣に弾かれ、アスファルトを削りながら転がっていった。
 
蓮の持つ剣も長さ、太さ、ともに相当な大きさだが、使い手の力量が違うのだろう。その力は大人と子供ほどの差があった。
 
何とか身を起こし、無表情に歩いてくる夜叉王を見据えた。

「もっと、力があったら……」
 
剣を杖代わりにして立ち上がる。
 
そこへ、夜叉王が慈悲なく剣を振り下ろした。剣圧だけで十分に蓮を吹き飛ばす威力がある。
 
勢い良く飛ばされた蓮は、ドン、と何かにぶつかった。

「何やってんのよ、情けないわね!」
 
頭上から降ってきたのは、紅葉の声。
 
振り返ると、蓮は紅葉に受け止められていた。そして、目の前に広がる紅い結界。

「十夜……!?」
 
夢幻球の幻惑は夜叉王の動きを一時的に止めた。しかし、それも一瞬のことで、すぐに紅い霧は消し飛んでしまった。

 
現れた夜叉王の前に立ちはだかった十夜は。

「夜叉王とはいえ、か弱き者を攻撃するのは許し難い行為です」
 
鋭い瞳で、凛々しく言い放った。

「か、か弱き者って……」
 
そんなことを言われてしまった蓮は、少し自分が情けなくなった。